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【Q1.成長ホルモンは、12時前に眠らないと出ないので、夜更かしをすると子どもの成長に影響がでると聞きましたが本当でしょうか?】
A1.早く寝ること自体は、良いことですが、「12時前に寝ないと成長ホルモンが出ない」というのは事実ではありません。ホルモンには、生物時計にしたがって分泌されるホルモンと、起きているか寝ているかという状態にしたがって分泌されるホルモンがあります。生物時計にしたがって分泌されるホルモンは、寝ていても起きていてもある時刻がくれば分泌されます。
この仲間には、コルチゾールやメラトニンなどがあります。一方、成長ホルモンは、睡眠中とくに深い眠りと考えられる「徐波睡眠」という眠りの時期に、するどいピークをもって出現します。12時前だろうが12時過ぎだろうが、この深い睡眠が出現すれば、それに合わせて成長ホルモンのピークが観察されます。12時前かどうかという時刻が重要なホルモン(コルチゾールなど)は寝ていても起きていても出ますし、成長ホルモンは時刻に関係なく深い眠りであれば出ます。「12時前であり」「寝ている状態である」という二つの条件を満たさないと出ないなどというホルモンは存在しません。さらに、24時間全く寝ない状態でいた場合に血液中に分泌される成長ホルモンの1日あたりの総量は、眠った場合に分泌される1日あたりの総量と変わりません。
もし、身体の成長が血液中に分泌されるホルモンの総量に依存しているのなら、眠ることと成長とは関係ないとさえ言えることになります。しかし、もし、一時的に大量に成長ホルモンが分泌されることが成長にとって重要であるのならば、深い睡眠をとることが重要であると言えます。ここの部分についてはまだ良く分かっていません。
また、早く眠ることと深い睡眠が出ることとは直接には関係ありませんが、夜更かしな人は、単に睡眠が後ろにずれているだけではなく、睡眠時間や就寝時刻が不規則である傾向があります。眠りが不規則だと深い睡眠が眠りの前半でまとまって出るという理想的な睡眠にはなりにくいので、早く眠ることと深い睡眠がでることと、さらに成長ホルモンが出ることとは完全に無関係とは言えない部分があるかもしれません。
【Q2.普段、家族全体が夜更かしで、寝不足気味なので、週末には昼頃まで良く眠るように心がけていますが、これって正しいんでしょうか?】
A2.まったく逆効果です。いわゆる寝だめをしようとされているのだと思いますが、寝だめは出来ないとお考えください。眠りは、量的に少ないか多いかだけが問題にされることが多いのですが、眠りの背景には生物時計があって眠りをコントロールしています。昼間はがんばっても眠りにくく、夜はがんばっても起きていることが難しいのは、このせいです。平日でも週末でも同じ時刻に眠って起きるのが理想です。週末に昼間まで眠ることで、生物時計によるリズムを乱し、時差ぼけのような状態を自分で作り出していることになります。
この結果、日中に気分や具合が悪くなったり、月曜日に仕事や学校に行く気持ちがうせたりします。週末の睡眠を長くすることは全くの逆効果ですので、がんばって平日に早く寝ることをぜひ真剣にお考えください。
【Q3.早く寝るための具体的な方法があったら教えてください。】
A3.これは、という名案がひとつあるわけではありませんが、まず、寝る環境を整えることを考えてください。夜になっても明るい照明(とくに短い波長の光(青や緑)を含む白い蛍光灯)をつけたままでいることは、夜の眠りを遅くする効果がありますので、夕方以降は明るすぎる照明は避け、また、白い蛍光灯は、白熱灯や白熱灯型の蛍光灯(赤っぽい光)に交換することをお勧めします。
また、身体の奥の体温が低下しないと眠れません。このためには、手足が暖かくなって、そこから熱が逃げる必要があるのですが、冷え性の方などは、手足が冷たくて、身体の奥の体温が下がりませんので、なかなか寝付けません。眠る2時間くらい前に、熱すぎないお風呂に入るか、ウォーキングなどの軽い運動(熱すぎる風呂や過激な運動はかえって眠りを阻害します)をして、一時的に体温を上げておくと、寝る時刻ころに、身体の奥の体温がスムーズに低下します。手足を温めるという意味では、足湯だけでも効果があるのではないでしょうか?長期的には、もし、生活習慣が不規則であれば、なるべく同じ時刻に食事や睡眠を心がけるようにすると、楽に寝付けるようになると思います。
【Q4.朝の光が生体リズムをリセットすると聞いたことがあります。日光じゃないといけないんでしょうか?身体に浴びる必要がありますか?それから、どのくらい長く浴びてないとだめなんでしょうか?】
A4.生体リズムは、時間が分からない環境におかれると、人間の場合、どんどん遅れて行きます(24時間より少し長い周期で、個人差もあります)。この1日のずれを朝の光がリセットしてくれると言われています。この光は、日光でなくても構いませんが、室内光で、日光と同じくらいの強さを実現しようとするかなりな数の照明が必要となります。人間の目は、カメラとは違って、光の量に一対一で反応していません。
カメラの場合、室内撮影をしていて、そのまま窓をとろうとすると真っ白になってしまいます。これは、室内と室外の明るさが、物理的には非常に違うからですが、我々の目の場合、その違いを敢えて分からない構造になっています。
したがって、明るい屋外から(じっさいには)暗い室内に移っても人の顔が真っ暗で見えないなどということが無いわけです。これは、これで役にたっているのですが、一方で、我々が光の強さを正確に認識できないということにもつながっています。明るいと思っている室内でも実際に図ってみると300から400ルクスという照度しかありません。一方、暗いと思っている曇りや雨の日でも室外では、3,000ルクスを超えています。
およそ10倍の違いですが、我々にはほとんど同じように感じられます。したがって、日光である必要はないのですが、明るいと思っている室内の光はあまり役に立たないということになりますので、やはり、室外にでてしまい、日光を浴びるのが手っ取り早く有効な方法です。また、浴びるといっても、身体に浴びても効果はありません。
一時期、ひざの裏の皮膚に光を当てると時差ぼけが解消されたとの報告がありましたが、その後の研究で全く支持されていませんので、おそらく効果はないと思われます。目から入った光は、目で物を見るために脳の後ろにある視覚野という場所に運ばれますが、途中で枝分かれして脳の中にある生体時計である視交叉上核という場所に光の情報を伝えています。
このことを考えてみても、目から取り入れた光がリズムには大事だということが分かります。どのくらい長い間、光を浴びるべきかという質問ですが、実験室では、1時間~2時間程度の比較的長い時間、光を浴び続けます。
人工照明下でじっと1時間過ごすのは、大変だと思いますが、たいていの方は、朝起きて、30分以上、2時間未満の通勤・通学時間があると思います。その間、ずっと地下鉄に乗っているのでなければ、普通の生活をしているだけで、比較的長い間、午前中に目から光を取り入れているわけです。
このような家から出る日課は非常に重要だと思います。午前中の30分程度の散歩でも意味があると思います。また、作家や在宅勤務のプログラマーの方や不登校のお子さんが昼夜逆転する背景には、家から出ずに室外光を目から取り入れる日課を持っていないことがあると考えられます。
昼夜逆転や夜型は慢性的な時差ぼけ状態と言っても過言ではありませんし、夜型の生活の場合、単にずれているだけではなく、睡眠時間も長く、覚醒時間が短くなる傾向がありますので、仕事の効率を考えても、規則的な生活習慣を保つ努力は重要だと思います。
【Q5.私は午後1時半から2時にとても眠くなります。午後の授業は、いつも異常に眠くて睡魔に負けてしまうのですが...。】
A5.午後2時から3時というのは日中で最も眠い時間帯として知られています。幼児でも午前中の昼寝はかなり早い年齢で消失しますが、午後の昼寝は遅い子では就学齢直前(5、6才)まで続きます。 特に思春期にはこの時間帯の眠気が再び強くなり、生理学的背景があるのだろうと考えられています。お昼の後の眠気の高まりという意味でpost-lunch dipと呼ばれますが、必ずしもお昼を食べたこととは関係がありません。ある文化圏(ラテン系の国々、や南アジア(中国南部から東南アジア圏))ではSiestaシエスタと呼ばれる昼寝を毎日とる習慣があります。
【Q6.金縛りにならないようにするにはどうしたらいいですか?】
A6.以下の条件がそろえば、金縛りになることがあります。つまり、まず、仰向けに寝ること。不規則な生活をすること(夜中に起きたり寝たりなど、金縛りは夜中に目覚めた時にもっとも起きやすい。昼寝でも可能性がある)。へとへとに疲れること。あと、比較的若いこと。ただ、なりやすい人とそうではない人がいます。
なりやすい人は寝付くのに時間がかからなくて、いつも眠そうにしている人であることが多いようです。金縛りの好発年齢は15才から20代前半です。
金縛りになりたくない場合は上に書いてあるようなことを避けて下さい。眠るのは横向きに。
【Q7.人間は何日ぐらい眠らなくても死なないのでしょうか?】
A7.質問は「ある程度眠らないでいると死んでしまう」ことを前提としていますが、眠らないでいても死にません。では、どうなるのかというと、眠ってしまうんです。
インチキみたいな話ですが、ずっと眠らないでいることは不可能なのです。たとえ、他の人が大声で呼んだり水をかけたりしても一瞬の間眠りに落ちるmicro sleepマイクロスリープという現象がおきてしまいます。動物実験では、眠りを与えないようにした動物が死んでしまったという実験があるのですが、人間ではこのようなことを当然ながら行えません。したがって、人間で同じことが起きるのかどうかは、疑問ですし、眠りたいのを刺激を与えて起こすという事自体が非常に強いストレスになります。
動物の死亡の原因が眠りを奪った結果なのか、眠りを奪うことによるストレスなのかは、なんとも言えないと思います。
【Q8.寝る前に見たものや一日の中でとても印象の強かったものなどが夢の中にでてくるのですが、これはどういうことなのでしょうか?】
A8.夢は脳の中に貯えられた記憶の痕跡を再構成して生じると考えられています。ですから、当然の結果として印象の強い出来事などは夢の中に現れやすいことになります。神戸の震災やサリン事件の被害者たちの間で問題になっている心的外傷後ストレス障害 (PTSD; Post Traumatic Stress Disorder) の症状の一つとして恐ろしかった出来事が頻繁に鮮明な悪夢として現れることが知られています。夢では印象の強い出来事のほか、まったく心当たりのないこと、例えば「好きでもない人と夢のなかでデートしている」などということもよく起こります。
これは、別に「赤い糸が結ばれているのに夢の中で初めて気がついた」ということではなく、不完全な機能状態の脳がいいかげんに作り上げたお話として理解したほうがいいように思います。
【Q9.寝ダメはできるんですか?】
A9.寝ダメはできません。長く寝る人は、次の夜も長く寝るものです。もし、睡眠時間の足し算や引き算が可能であるとするならば、徹夜した後は2日分眠らなければならないことになりますが、実際は2倍ではなく、1日分の睡眠より多少長い程度であることが普通だと思います。もちろん睡眠時間は前日の睡眠時間の長短と関連していますが、生体リズムとしての側面も持っています。いつも長く眠っている人はいつも長く、いつも短く眠っている人はいつも短く眠ります。
さらに長く眠っていた人も必要に応じて短い睡眠習慣に移行することが可能です。寝溜めをすることは、言い換えればむしろ不規則な生活リズムを作り出していることになります。
【Q10.予知夢はあるんですか?】
A10.「ある夢を見てその後それと同じ体験をした」と言うのが予知夢だとするならば、予知夢といわれているもののほとんどが実際には予知夢ではありません。
ほとんどの「予知夢」は、なにか出来事があったときに「あっ、これと同じことを夢で見た。」というタイプの偽予知夢です。これと同じような体験に「既視感」(Deja-vu)があります。
この二つの体験は恐らく側頭葉の記憶のシステムの一時的な障害によって起きているのだろうと考えられます。
【Q11.寝言に応えるといけないんですか?】
A11.「寝言にこたえると、その人が死んでしまうので寝言に応えてはいけない」というようなことを聞くことがあります。これは全くの迷信です。
ちなみにほとんどの寝言は夢とは無関係で、夢見の睡眠であるレム睡眠以外の睡眠でおこります。ただし、初老期以降に夢に対応した鮮明な「寝言」を発したり夢に対応した行動を眠りながらしているような場合は要注意です。
これは、レム睡眠中の筋緊張抑制機構の障害であるレム睡眠行動障害 (RBD:REM Sleep Behavior Disorder) である可能性があります。
【Q12.「睡眠学習」は可能なんですか?】
A12.睡眠中も外界の刺激によって誘発電位が認められることから、たしかに脳は外界の刺激にある程度反応するのが可能なことが分かります。しかし、その刺激を長期記憶として貯蔵(つまり記憶・学習)したり、何らかの処理をしたりすることが可能かどうかいうこととは話はべつです。
睡眠中でも単なる音を聞いた場合と本人の名前を呼ばれた場合とでは、反応がことなることから、単なる知覚にとどまらず認知的な処理が睡眠中でもある程度可能であることが分かります。
また、夢を見ているレム睡眠では、脳が比較的活発に機能していますが、レム睡眠中は外界からの知覚を抑制する機構が働いているため、外界からの刺激に対してはむしろ反応が鈍くなります。
睡眠学習法については1970年代にいくつかの実験が行われ、偶然より高い確率で的中したとの報告もあることはありますが、「統計的には意味がある」という意味であって、決して「実用的」ではありません。
ある研究では、呈示刺激によって誘発されたアルファ波(つまり、このときは起きていることになる)の量と記銘の量とに相関関係が認められたというものもあり、覚醒していなければ長期記憶には残らないと考えるのが妥当だと思われます。
【Q13.なぜ人は眠るのでしょうか?】
A13.これは、世界中の睡眠研究者が、一番多く聞かれ、かつ、一番答えに窮している質問だと思います。
まず、「なぜ」の意味ですが、「何のため」という意味だとすると、それは、「神のみぞ知る」と言わざるを得ません。身体の機能は、「結果として」何かの役に立っていることはあっても、「はじめから」何かの役に立つために「与えられている」とは言えません。神様の存在を信じていて、その神様が、人を含む生物に役に立つような機能を与えられたのだと信じている場合は別ですが、そうではなくて、進化論的に身体の機能を考えれば、現在の環境に適応していく過程で有利であった機能、もしくは不利にならなかった(つまりどうでもいい)機能が残ってきたと考えられます。
たとえば良く「汗をかくのは、体温を一定に保つためだ」というような言い方をしますが、それは、あたかも体温を一定に保つために、発汗の機能が出来た」ことを暗示しているように聞こえます。でもこれは、「発汗という機能が(おそらく)体温を一定に保つ為に有利に働いたために「淘汰されなかった」」という言い方の方が正しいのだと言えると思います。しかし、「汗をかくのは、体温を一定に保つためだ」という言い方のほうが、進化論的な考え方を導入する必要がなく、分かりやすいので一般的に言われているのだと思います。
ところで、「なぜ眠るのか」ですが、進化論的に考えて、ヒトと同じような「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」(これらの言葉については、この次の質問で詳しく説明します)から構成される「睡眠」は、鳥類以上(鳥類、哺乳類)にしか認められませんが、爬虫類以下(両生類、魚類、軟体動物、昆虫)でも、「動かない」「刺激に反応しない」「特定の寝場所にいる」「特有の姿勢をとる」などの特徴をもつ、鳥類以上の睡眠と共通する「睡眠様」の状態があって、一日のうち一回、この状態を一定時間保っています。
このことを考えると全ての動物に広い意味での睡眠があると言っていいと思います。また、動物だけではなく、植物にも24時間のリズムが認められますし、単細胞生物にも活動と不活動の周期が認められます。 こうしたことまで考慮しますと、全ての生物に何等かの形で活動と不活動の周期(リズム)が認められることになります。
全ての生物に24時間の地球の自転のリズムと同周期の活動周期があるということは、生物の24時間周期が、地球環境の24時間周期の変化を取り込んだ、もしくは適応した結果であることを示唆していると思われます。
つまり、我々が睡眠と呼んでいるのは、地球の自転周期に生物が適応した結果、生じたリズムのうちの、ある一定の状態を保っている一部分を指しているということになります。「睡眠は休息だ」ということは良く言われることですが、では、長く眠れば眠るほど、休んだ感じがするか、徹夜などをするとそれと同じだけ余分に眠らなければならないのか、など考えてみて下さい。
たしかに、成長ホルモンという身体の成長などに役立つホルモンは睡眠の前半の深い睡眠中に集中して分泌されます。しかし、睡眠時間の長短は、身長の長短とは関係していません。寝ることに休息という機能がないとは言いませんし、眠らなくても平気では決してありませんが、寝ること即ち休息という考え方には、疑問を持たざるを得ません。
つまり、我々は活動と不活動のリズムを機能として持っている、というのが「何故、眠るのか」についての最も正確な(しかしあまり面白くない?)説明のような気がします。
【Q14.寝ている間、人体の働きはどのようになっているのでしょうか?】
A14.人体の働き(機能)と言われると、全ての機能を指すのでしょうが、全てについては、とても答えられません。ここでは、一般的な睡眠中の身体機能の変化について述べようと思います。以下に述べることは、睡眠についての啓蒙書にも出ていることなので、ご存知かもしれません。
睡眠には、大きく分けて2つの種類があります。レム(REM)睡眠とノンレム(non REM)睡眠です。ノンレム睡眠には、さらに、脳波などによる基準(深さと言い換えても良いでしょう)によって4つの種類(段階1から4まで)があります。段階1が一番浅く、段階4が一番深い睡眠です。レム睡眠は、これらの睡眠とは異なり、脳波的には浅い睡眠ですが、姿勢を維持する為の筋肉の緊張は最低となり、外からの刺激を脳の段階で遮断しているので、なかなか覚醒させにくい状態でもあります。また、睡眠中にもかかわらず、覚醒中のように眼球が動くので、他の睡眠状態とは区別され急速眼球運動Rapid Eye Movementの頭文字をとってREM(レム)睡眠と呼ばれます。
また、このレム睡眠中に起こすと、夢を見ていたという報告が高率(80%くらい)に得られることからこの睡眠状態のときに夢を見ていると考えられています。眠りに就くとだんだんと深い睡眠に移り、一番深い睡眠である段階4や段階3がしばらく続き、一時間ちょっとしたところで、その夜の第1番目のレム睡眠に入ります。最初のレムは短く5分から10分続いてまたノンレム睡眠に戻ります。2回目以降のノンレム睡眠はそれほど深くならないで、また、しばらくするとレム睡眠に入ります。
このようにレム睡眠は、繰り返し現われその周期約90分の周期となっています。7、8時間の睡眠あたり、4、5回のレム睡眠があらわれる計算になりますので、人は夜中に4、5回の夢をみていることになります。夢を見たことがないという人がいますが、それは、見ていないのではなく、憶えていないだけなのです。
夢はその人の脳の中で記憶をもとに再構成されますが、睡眠中はその夢自体を記憶にとどめる機構が働いていないのか、夢はすぐに忘れてしまいます。この他、レム睡眠中には、心拍数や呼吸数が平均して上昇し、かつ高いときと低いときのばらつきが大きくなるとか、さまざまな特徴がありますが、このようなことは啓蒙書に詳しく出ていると思いますので、省かせてもらいます。
【Q15.立ったまま眠ることは出来るのでしょうか?】
A15.会社帰りのサラリーマンが電車の吊革につかまりながら寝ているという光景を目にしたことは、ありませんか?つまり、立ったままでも睡眠状態になることがあります。しかし、睡眠中には姿勢を維持する筋肉群(抗重力筋といいます)が弛緩(力が抜ける)するためで、全体として身体の力が抜けてしまうので、立ったまま長い時間眠ることはできません。
そのままですと、ひざから力が抜けて立っていられずに横になる(倒れるか)力が抜けた拍子に目が覚めるかのどちらかです。
ちなみに、最も力が抜けるのは、上に書いたようにレム睡眠で、このため、リラックス出来ない姿勢での睡眠ではレム睡眠が非常に出にくくなります。
【Q16.夢と心理状態は関連しているのでしょうか?】
A16.夢の解釈は、科学的な証明がされているわけではありません。夢の解釈を行っているのは、睡眠研究者ではなくて、精神分析学者(臨床心理学のようなもの)と呼ばれる人たちです。正直申し上げて、フロイト流の夢分析を信じている科学的な睡眠研究者は、ひとりも居ないと思います。
ただし、うつ状態になるとレム睡眠中の眼球運動が増えて睡眠前半には短いレム睡眠が通常は多いのに長いレム睡眠が出てくるとか、ストレス状態と金縛り体験(ある種のレム睡眠中に起きる幻覚と考えられています)とが関係があるとか、トラウマ(心理的外傷体験)の後にその場面と全く同じ悪夢を繰り返し見るとか、心理状態と夢見は無関係ではありません。
さて、その悪夢ですが、悪夢には2種類あると言われています。一つは上述したように、トラウマの後に起きる悪夢で、心的外傷後ストレス障害(PTSD: Post Traumatic Stress Disorder)の症状の一つとして起きます。この場合のトラウマとは、例えば戦争で知人が目の前で死んだとか、災害などで九死に一生を得たとかの強烈なストレスにさらされた場合を指します。こうした場合には、例えば知人が目の前で死んだのであれば、それと全く同じ光景を繰り返し繰り返し夢に見ます。また、覚醒中にも鮮明な映像としてその光景が目の前にありありと再現されたりもします。
覚醒中に起きる現象をフラッシュバックと呼び、睡眠中に起きる悪夢も実は一般的な夢とは異なり、このフラッシュバックが睡眠中にも起きたものだと考えられています。その証拠にこの悪夢はレム睡眠中ではなくノンレム睡眠中に生じ、粗体動(大きな身体の動き)を伴います。もう一つの悪夢は、もっと一般的なもので、何かに追いかけられているとか、何かを失敗するとか、いうものです。こちらは、レム睡眠中に起きます。こちらの悪夢は、繰り返し見る場合でも、テーマが同じでも場面や登場人物など具体的な状況がいつも同じとは限りません。
怪物に追いかけられている場合も、実際の人に追いかけられている場合もあります。こうした一般的な悪夢を繰り返し頻繁に見る人には、少し変わった人が多いというデータがあります。
【Q17.在宅勤務をするようになってから毎日少しずつ眠りに就く時刻が遅くなっていく感じなのですが?】
A17.まず、だれでも時間に関する手がかり(明るさや気温の変化、他者とのコミュニケーションなど)を失った環境(例えば、洞窟の中などで暮らして自分で人工照明の点灯消灯をするなど(実際の実験で行われた手続きです))で生活すると、睡眠覚醒リズムは、しばらくして24時間から外れて、人の場合24時間より少し長い周期で睡眠と覚醒のリズムが繰り返されるようになることを知っていただく必要があります。
このように地球の自転周期である24時間とは異なる周期で睡眠覚醒リズム(体温・ホルモンなどの生体リズム)が繰り返されることを、Free Running Rhythm(自由継続リズム)と呼びます。ヒトでは、24時間より少し長いリズムである場合が多いので、25時間の周期を持つ月の周期と関係しているだとか、かつて地球の自転周期が24時間よりも長かったことの反映だなどと言われることもありますが、マウスなどでは、むしろ24時間よりも短いことが多く、また人でも36時間や48時間など12時間や24時間の倍数に近い周期が出現することもあり、これらの仮説はどうも信憑性にかけると言わざるを得ません。さて、近年、睡眠と覚醒のリズムが外界の24時間リズムに同調できず、社会生活上で困難を感じている人々が多数存在することが明らかになって来ました。
睡眠と覚醒のリズムが24時間より長く自由継続している場合(非24時間睡眠覚醒症候群: non-24-hour Sleep-Wake Syndrome)や周期は24時間でも就床時刻と起床時刻が極端に遅れている宵っ張りの朝寝坊型(睡眠相後退症候群: Delayed Sleep Phase Syndrome)が主なもので、これらを概日リズム睡眠障害(Circadian Rhythm Sleep Disorders)と総称します。これらの症状を示す人々は、外界のリズムに同調する為の機構に問題があるか、外界のリズムを取り込み難い生活環境にあると考えられています。
ご質問の症状はこれらの睡眠障害の軽いものと考えられますが、在宅勤務などであまり人と会わないでいる状態で長くいる場合、こうした(洞窟までとは行かなくても)外界のリズムをとりこみ難い状態であると言え、これが睡眠覚醒リズムの不規則化を生じさせていると考えられます。障害という言葉にびっくりされたかも知れませんが、現在の生活スタイルに問題を感じておらず、社会生活上も困っていないのであればそのままでも構わないと思います。
ただし、こうした生活が長引くと外界のリズムに同調することがだんだんと困難になるということもあると言われていますので、明るいうちに一度は外に出るなどの習慣をつけることも必要かもしれません。特に午前中明るい光を浴びる(と言っても目から入らなければ意味がありませんが)ことがリズムの同調には非常に重要です。
【Q18.私は寝ている時に家族の者に声を掛けられ、返事や多少の会話をするらしいのですが、全く覚えていません。夢を見ていた記憶もありません。なぜ覚えていないのか不思議です。】
A18.Q11「寝言に答えていけないか」にも書きましたように、寝言の多くは「夢」とは無関係に起こります。
夢の最中に起こる寝言については、夢の内容と関係したことを喋っていて、なおかつ、自分自身もそのことを覚えていることが多いのですが、レム睡眠(夢)以外、つまり、ノンレム睡眠中の寝言は、「夢」体験とは関係しておらず、脳の活動レベルも低い状態ですので、本人も何を喋ったのか覚えておらず、また、発言内容も、意味不明のトンチンカンなことが多くなります。
いわば寝ぼけ状態で、勝手に口が動いているような状態ですので、当然、返事や会話(らしきもの)をしても、形だけの返事で、本当の意味で会話になっていないことが多いと思います。
また、仮に会話らしきことになっていたとしても、本人も(後でちゃんと起きたときには)自分で何を言ったのか覚えていないのが普通です。寝ぼけが多いということは、睡眠のリズムが不規則(夜更かしを良くするとか、昼間に長い昼寝をするとか、何度も寝たり起きたりする)になっている可能性もありますので、生活を規則正しくするように心がけると寝言が減るかもしれません。
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